社長のための「コラム&NEWS」
今、押さえておきたい! 社長が知っておくべき「労務リスク」

第31話 「マタハラ対策の必要」

1.労務管理のトップ課題としてのイジメ
 全国の労働局長が実施する総合労働相談件数のうち民事上の個別労働関係紛争に関する相談件数は、245,125件で、そのうち「いじめ・嫌がらせ」は66,566件(22.4%)と、2位の「解雇」37,787件(12.7%)を抜いたまま、4年連続でトップを占めています(平成27年度)。
 職場におけるハラスメント(いじめ)の問題は、被害者と加害者という当事者間の問題にとどまらず、使用者が不法行為責任と債務不履行責任を基に、慰謝料・医療費・休業補償・遺失利益などの損害賠償請求を受けるというリスクをもっています。
 またハラスメントは、職場内秩序を乱し、組織の正常な業務運営の障害になるもので、企業経営としても前向きに対策しなければなりません。
 今、これまでの「セクハラ」「パワハラ」に加えて、「マタハラ」がクローズアップされています。
 細かくいうとマタニティー(母性)ハラスメント、パタニティー(父性)ハラスメントです。

2.妊娠・出産等に対する不利益禁止
 事業主がその雇用する女性労働者の妊娠・出産、その他それに関すること、そして育児・介護休業等の申出・取得したことなどを理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されています。
 病院に理学療法士として勤務し、副主任であった女性が妊娠を理由に降格されたことについて、最高裁が違法・無効と判断し慰謝料も含めた賠償を病院側に命じた、いわゆる「マタハラ判決」は、記憶に新しいところです。(広島中央保健生協病院事件・最判平26.10.23)
 「解雇その他不利益な取扱い」とは、厚生労働省の指針では、次のように掲げられています。
(1)解雇すること。
(2)期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
(3)あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
(4)退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
(5)就業環境を害すること。
(6)不利益な自宅待機を命ずること。
(7)(育児休業等に関連して)労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
(8)降格させること。
(9)減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
(10)昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
(11)不利益な配置の変更を行うこと。
(12)派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

3.マタハラ防止措置の義務化
 それに加えて、平成29年1月1日からは、妊娠・出産したこと、育児・介護休業等の利用に関する上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されること(ハラスメント)のないよう相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられました。
 このハラスメントには、
(1)妊娠等をしたことそのもの(状態)への嫌がらせ
(2)制度等の利用への嫌がらせ
があります。
 制度等とは、次のものが挙げられます。
<男女雇用機会均等法が対象とする制度等>
(1)通院等の母性健康管理措置
(2)坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
(3)産前休業
(4)軽易な業務への転換
(5)変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限、深夜業の制限
(6)育児時間(1日2回、30分以上)
<育児・介護休業法が対象とする制度等>
(1)育児休業(原則として子が1歳になるまで取得できる)
(2)介護休業(対象家族1人につき通算93日間取得できる)
(3)子の看護休暇(年間5日間(子が2人以上の場合10日間)取得できる)
(4)介護休暇(年間5日間(対象家族が2人以上の場合10日間)取得できる)
(5)所定外労働の制限(残業免除)
(6)時間外労働の制限(時間外労働は1カ月24時間、1年150時間以内)
(7)深夜業の制限
(8)所定労働時間の短縮措置
(9)始業時刻変更等の措置

4.マタハラ・パタハラになるパターン
 事業主による防止措置が必要となる、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するマタハラ、パタハラには、次のような類型があります。
(1)上司が解雇その他不利益な取扱いを「示唆」する。
「妊娠したなら、辞めてもらうしかないわな」
「育児休業したいなら、昇進はあきらめてもらう」等
(2)上司・同僚が妊娠等をしたことに対して、繰り返し・または継続して嫌がらせをする。
「こんな大切な時に・・・妊娠するなんて」
「妊婦はいつ休むかわからないからな」等
(3)上司は1回でも、同僚は繰り返し・または継続して妊娠・出産・育児休業等の制度・措置を利用しないように言動する。
  「男のくせに育休なんて…」
「俺だったら、とても育休なんか…とれないね」等
(4)上司・同僚が制度等を利用したことにより繰り返し・または継続して嫌がらせをする。
「残業できないから仕事もできないのだ」
「自分だけ早く帰って…周りの迷惑も考えてよね」等
 このように妊娠等の状態・育児休業制度等の利用等と嫌がらせ等となる行為の間に因果関係があるものがマタハラ等とされるわけですが、会社としてマタハラをする意思がなくても、「上司・同僚」のレベルでのこのような言動はありえることです。

 これまでのハラスメント対策に加えて、国としての、先進国共通の深刻な課題である「少子化対策」が加味されているように思えます。
(部局もこれまでの労働局「雇用均等室」が「雇用環境・均等部」に格上げ強化されています。)

 ただし、業務体制を見直すために育児休業等の期間を確認することや妊婦への体調と業務について配慮することなど、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しません。
 そのような調整の依頼や変更の相談は、強制にならないように注意しなければなりません。

5.事業主が講じるべき措置の内容
(1)「ハラスメントはあってはならない」との方針と制度等の周知、就業規則改訂などにより、どのようなことがマタハラ等となるのか、マタハラ等の行為者には懲戒などで厳正に対処する等の周知と啓発
(2)あらかじめ「相談窓口」を定めておくなど、苦情・相談に応じ、適切に対応する体制の整備
(3)職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに係る迅速かつ適切な対応
(4)職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
(5)相談者・行為者等のプライバシーの保護や相談、事実確認に協力した者が不利益にならないようにする
 これらは、セクハラ・パワハラへの対応と共通したものがあります。ハラスメント全般に対する「相談窓口」を設置し、相談も一元的に受付ける体制の整備が望まれます。
 新たなハラスメント防止体制によって、(ブラックではなく)良い人材を確保できるブライトな企業にしていきたいものです。

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筆者紹介

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講師 阿世賀 陽一

社会保険労務士阿世賀事務所 所長

ある日突然、元社員から訴えられる。最近では珍しくない話。今、企業は、時間外労働、メンタル問題、セクハラ、パワハラ、非正規社員、問題社員…など、さまざまな問題を抱えている。阿世賀氏は、これら経営者が知らなかったでは、済まされない労務問題を解決するスーパー社労士として活躍する。 特定社会保険労務士 全能連認定マスター・マネジメント・コンサルタント。

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