社長のための「コラム&NEWS」
酒井英之の「Nロード経営法」

第10話 『組織の記憶』を伝えて、知行一致を実現する

どこにでもある業種なのだけど、「どこにもない存在」となっていく。
それがNロード経営の理想です。Nはその成長軌道を表しています。

他者との違いを出すには、戦略に影響を及ぼす企業理念から差別化するべきです。

そこで今回は、社員に「なぜ、その理念なのか」を伝え、行動を進化していく方法をお伝えします。

先日、「奇跡のタクシー」として有名な長野県の中央タクシーさんの朝礼を見学させていただきました。
同社が奇跡と呼ばれるのは、
第一は一台当たりの売上高が業界平均の3倍以上、
第二は年間のお客様からのお礼状が毎日のようにたくさん届く、
第三は退職者が30〜40%と言われている業界で3〜5%。


同社の人気は、ホスピタリティのレベルの高さにあります。
この高さは、ある事件への深い反省から生まれたものです。

同社は現在の宇都宮司社長のお父さんである恒久会長が、彼のお父さん(現社長のおじいさん)さんから、「理想のタクシー会社を作ろう」と言われて興した会社です。

なぜ、そのように言われたのか。
それは会長のお父さんが、業績の悪いタクシー会社を引き取り、その立て直しに大変苦労された経験があったからです。

昔のタクシー運転手は荒くれモノばかり。
ランニングシャツに雪駄でそのまま仕事に出ようとします。
会長のお父さんは「その恰好では行かせない!」と必死でとめます。
その睨み合いの末に、次から次へと人が辞めていきました。

また、「手持ちのお金がないのだが、家に帰ればある。そこで払うから」と言ったお客様がいました。
これを聞いた運転手は、あろうことかそのお客さまを家に連れて行かずに、会社の本部に連れてきました。

そして
「こいつは無賃乗車だ!」
と言って、他の運転手と一緒になって車洗浄用の高圧ホースで水をかけました。
この仕打ちに驚いた会長は、お客様に一生懸命謝罪しました。

が、そのお客様は、
「一刻も早くここから返してくれ」
「なんでこんな目に合わないといけないのか」
といい、ワンワン泣かれたそうです。

そうした悲劇は、「タクシー運転手はこんなもの」という運転手自身の「既成概念」から生まれたものでした。
その事態を嘆いた会長のお父さんは、恒久さんに「お前は理想のタクシー会社を作れ」と託したのです。

それは、お客様をお客様と呼び、ドア開けサービスをし、挨拶をする、サービス業として当たり前のことを当たり前に行う『お客様が先、利益が後』を貫くタクシー会社でした。
そして、「既成概念」に染まっていないタクシー業界未経験者のみを採用し教育を重ねていったのです。

同社の朝礼は、それを反復練習する教育の場でした。
私が見た朝礼では、運転手が盲人のお客様を迎えに行き、病院へお連れするロールプレイをやっていました。

お客様には、手を貸すのではなく肘を貸すこと。
杖を預かり、お客様の手をシートに触れさせてから座らせること、シートベルトを締めてあげること等、お客様を安心させる細かい作法があります。

病院に着いたらお客様を係の人のところまで案内します。
このとき
「私にお手伝いできることは他にございますか?」
と声がけをする気の配り方には驚きました。

こうした所作が自然にできるのは、上記のような「組織の記憶」を現社長が語り継いでいるからでしょう。
それが同社の「行動基準」になっているのだと思います。

それはちょうどイギリスの憲法が、我が国の憲法のような法律の条文ではなく、過去の判例や議決から成り立つ「不文憲法」と呼ばれるものと同じです。

「組織の記憶」を当時の人との想いと共に生々しく伝承することができれば、それもまた、今の人たちが「だから僕たちは日々こうでありたい」と願う行動基準となります。

あなたの会社には、「わが社の原点」ともいうべき「組織の記憶」はありますか?
それがいつしか忘れられ、そのことが「行動の乱れ」としてお客様を失望させる原因になっていませんか?

人は、ストーリーと印象しか記憶できないと言います。
理念で差別化を考える会社は、理念誕生の背景を、当時の人の想いと共に生々しく語り継ぎましょう。
そして、理念と行動が一致する知行一致の人を育てていきましょう。

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筆者紹介

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講師 酒井 英之

事業と組織のN字成長コンサルタント
(株)V字経営研究所 代表取締役

主力事業の業績が伸び悩む企業を次々と増収増益の組織へ進化させる実力指導者  ブラザー工業㈱に入社。ワープロ営業部に配属。市業績低迷が続く中、起死回生の商品開発の指令を受け、若手を中心にラベルライターの「P‐touch」を考案。この商品は今も、全米でシェア70%、国内ではトップシェアを誇るロングセラー商品に大成長。強い組織づくりの基礎を経験。情報機器メーカーへN字成長する一翼を担う。また、コピー機事業部では営業担当として売れない商品を売りまくり、優秀賞を7回受賞。コンサルタントとして独立、世界シェアNo.1の大企業から10人の中小企業まで、約400社の業績停滞企業における主力事業の再生指導・組織進化を手掛ける。シェア8%の商品が70%に躍進した例や、最後発から売り方を進化させ、No.1企業へ成長した例など、社長と組織を時代に合わせて進化させる独自の指導を行う。

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