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中国経済の最新動向

第62話 中国:2017年は要注意の年

 グレータ―チャイナ(中国、香港、台湾)は今、激動期を迎えている。
 中国では元最高幹部の周永康氏が摘発され、3年後の党大会開催に照準を当てる動きが活発化している。香港では3年後の直接選挙をめぐり、学生たちによる「香港占拠」という民主化運動は展開されている。台湾では今年3月の「立法院占拠」運動が発生していた。このグレータ―チャイナの一連の動向を読むキーワードは、まさに「2017年問題」である。

◆中国:権力闘争が激化の恐れ
 周永康摘発は、習近平国家主席が唱える反腐敗の一環であることは間違いない。しかし、それだけではない。習氏のもう1つの狙いは「江沢民院政」の打破と2017年の人事布陣にある。

 周知の通り、鄧小平時代以降、党・政府・軍の最高権力を一手に握り中国を君臨してきたのは、江沢民氏である。2002年11月胡錦濤政権誕生後も、江氏は「院政」を敷き、陰で影響力を行使し続けてきた。胡錦濤執行部メンバー(政治局常務委員)の構成を見れば、9人のうち、過半数を占める5人が「江沢民派」である。現習近平執行部メンバー7人のうち、4人が「江沢民人脈」と言われ、江氏の影響力の大きさがわかる。

 言うまでもなく、「江沢民院政」を打破しなければ、習近平国家主席の権威確立も改革断行のリーダーシップ発揮もできる筈がない。そこで、習氏は国民が最も怒りを感じる腐敗現象の是正に着手し、腐敗に手を染めた江沢民人脈にメスを入れる。周永康・前党中央政法委員会書記の摘発・立件、徐才厚・前中央軍事委員会副主席の党籍剥奪、薄熙来・元重慶市書記の公開審判と無期懲役判決など、習氏は辣腕を振って反腐敗に取り組み、国民からの喝采を得ている。

 周、徐、薄3人はいずれも胡錦濤政権時代の大物幹部で、徐と薄は元政治局委員、周は元常務委員である。特に、周は全国の公安と武装警察を統率していた人物、徐は軍制服組最高幹部で軍隊を掌握していた人物、薄は周永康から次期中央政法委員会書記の内諾をもらった人物である。この3人の共通点は元国家主席江沢民に抜擢・重用された「江沢民人脈」である。かつて軍と武装警察を掌握していた大物幹部にメスを入れることは、習近平氏の「江沢民人脈」排除の決意を示すものと見られる。

 現在、北京で党の「四中全会」(10月20~23日)が開催され、周永康処分の結論が出される可能性が高い。今後、政局の焦点は3年後の2017年党大会人事に移るだろう。

 2017年秋に開かれる第19回党代表大会では、新執行部(政治局常務委員)が選出される。現執行部メンバー7人のうち、習近平国家主席と李克強首相を除き、「江沢民人脈」と見られる4人を含む5人は年齢的な原因(67歳が上限)で引退する一方、習氏に信頼される人物が新執行部に入る。これをもって、二期目の習近平政権が誕生する。

 これまでの経験則によれば、党大会の開催に向け、党内の権力闘争が激化する。1995年陳希同・元北京市書記の失脚、2006年陳良宇・元上海市書記の失脚、2012年薄熙来・元重慶市書記の失脚などは、いずれも党大会開催直前の「政変」劇である。2017年新執行部の選出をめぐり、5つの最高幹部のポストを狙う熾烈(しれつ)な争奪戦が予想される。ただし、権力闘争は激化する恐れがあるが、政権転覆のシナリオはないと見ていい。

◆香港:直接選挙導入をめぐる混乱
 「一国二制度」の下、高度な自治が認められている香港では、2017年に1人1票による特別行政区長官の直接選挙が導入される予定。もし「反中派」の人物が当選すれば、北京中央政府との関係がぎくしゃくする恐れが出てくる。また、香港の民主化の波が中国本土に波及すれば、共産党政権に脅威を与えかねない。

 そこで中国の全人代(国会に相当)は今年8月に、中央政府の意に沿わない人物の立候補を事実上排除する方針を決めた。それに反発する香港民主派団体や学生たちは9月28日からデモなど「香港占領」運動を開始し、今も続いている。

 「香港占拠」運動は2017年直接選挙の前哨戦と位置付けられる。2017年、香港行政長官直接選挙をめぐる混乱は本当に避けられるか?香港の「一国二制度」は維持されるだろうか?香港の繁栄は引き続き保たれるのか?その行方は中国と香港のみならず、世界的にも大いに注目される。

◆台湾:独立主張の民進党政権誕生も
 今年3月、台湾で「中台サービス貿易協定」に反対する大規模なデモが発生し、学生たちによる「立法院占拠」運動が行われた。

 「中台サービス貿易協定」の正式な名前は「海峡両岸サービス貿易協定」で、中台間のサービス分野の市場開放を目指すものである。協定によれば、中国側が金融や医療など80分野を、台湾側が運輸や美容など64分野をそれぞれ開放する。協定は2013年6月に中台間で調印されたが、台湾の野党・民進党が反対している。理由は台湾の中小企業へのダメージが懸念されることが挙げられるが、その深層底流には中国に対する根強い不信感と警戒感がある。このままでは台湾が台頭する中国に呑み込まれるのではないかという懸念は事実上、多くの台湾人が共有している。

 3月17日、「中台サービス貿易協定」の批准をめぐる立法院の審議が行われるなか、与党・国民党は時間切れを理由に一方的に審議を打ち切り、野党・民進党が猛烈に反発した。翌日、「中台サービス貿易協定」に反対する大規模なデモが発生し、学生たちによる「立法院占拠」が開始した。

 3週間後の4月6日、台湾立法院の王金平院長は学生側の要求に応じ、「中台サービス貿易協定」の審議凍結を表明。学生側も10日に立法院から退去すると発表し、「立法院占拠」に終止符が打たれた。

 この「立法院占拠」運動は、2016年台湾総統選挙の前哨戦と位置づけられる。2016年、対中融和を訴える国民党候補と台湾独立を主張する民進党候補は総統選挙で激突する。

 現在、国民党の馬英九政権は人気低迷が続き、このままでは民進党候補に負ける可能性が大きい。仮に台湾独立主張の民進党政権が誕生した場合、中台関係が再び緊張に向かう確率が高い。

 ベトナム、フィリピン、日本など周辺諸国との対立が続く中、香港混乱に加え、中台関係もぎくしゃくすれば、中国をめぐる内外環境は一層悪化する。さらに今懸念されている中国の住宅バブルの崩壊は2017年前後に起きる確率も高い。日本企業はこうした中国の政治的・経済的リスクに留意する必要がある。

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筆者紹介

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講師 沈 才彬

多摩大学 大学院フェロー

寺島実郎氏の懐刀として16年に渡り従事。 中国について、政治体制・経済動向・歴史などのマクロ分析から、消費動向や中国企業業績などのミクロ分析までに精通する、中国経済研究のスペシャリスト。 元三井物産戦略研究所 中国経済センター長。 08年~09年国土交通省観光立国推進戦略会議委員などを歴任。多摩大学 大学院客員教授を経て、2015年より同大学院フェローに就任。 1944年中国江蘇省生まれ。 ■主な著書 『中国経済の真実』(アートデイズ)  『中国黒洞が世界をのみ込む』(時事通信社)

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