社長のための「コラム&NEWS」
大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

56軒目 小商圏で成立させるヒントはやはりレストラン×リテールのハイブリッドだった!


    多来多来(たくたく)
(京都府)

    

 京都の焼肉屋の経営者の間でよく聞く言葉がある。
 「“多来多来(たくたく)”行ったことある?」だ。

 それもそのはず、多来多来(たくたく)はここ数年、食べログの京都×焼肉でナンバーワンに君臨していた謎の店だからだ。
 今回は、この多来多来から学ぶことにしよう。

 

 関西地区の業界人であれば店名くらいを聞いたことがあるかも知れない多来多来であるが、行ったことがある人はおそらくほとんどいないだろう。
 それもそのはず、京都市と大阪市の間に位置しとても辺鄙な場所で営業しているからだ。
 しかし、多来多来に実際行ってみると学ぶとことがたくさんある。
 
 その地に根を張り、息の長い商売をするには生涯顧客としての関係を築かなければならない。そのために大切なことは、新規客の段階あるいは、早い時期に信頼されることであることは言うまでもない。
 人口増加に支えられていた成長の時代は、需要>供給の状況があり、売り手側の都合で動いた。しかし、2005年以降の供給>需要の状況となり、かつ、2010年以降、情報の大衆化がおこり情報の入手・発信が自由になったことにより、消費者の都合で動くようになった。消費者は情報を自由に入手して、より失敗しなそうな確実な店を選ぼうとするようになった。
 今、リテール(流通)とレストランのハイブリッド店舗が世界的に広がっているが消費者により安心感を与える有効な手法と言えるだろう。前回紹介したマンハッタンの“EATALY”は、その代表だ。消費者と直接取引していない危うさを感じたメーカーや流通が増えているし、その解決法がリテール(流通)とレストランのハイブリッドの店舗を開設することなのだ。
 
 供給>需要 となった2005年以降の環境に加えて、情報の大衆化で情報の入手・発信が自由になった2010年以降の環境の波にフィットし浮上したのが、多来多来だ。
  チェーン店でない地域密着の肉屋が経営している安心感を武器に肉をうまく売っている。と言えるだろう。
 
肉屋のやっている安心感とは
 多来多来から漂う、肉屋がやっている安心感とはなんだろう?
 私は下記の五つに集約できると思う。
  1. 生ものの安定した提供 (肉屋だから鮮度がいいという安心感)
  2. カウンター席に内にスライサーを置いて、カットを見せて、(調理プロセスの見える化をすることで演出される安心感)
  3. スタッフがほとんど社員(そうでないかもしれないが、そう見える)で、いつも(同じスタッフがいる安心感)
  4. 気軽な雰囲気の安心感(よく作りすぎていない、日常使いの居心地のよさの安心感)
  5. お客様の利用シーンに応じたおいしさの提供ができている(店の対応の安心感)

 この五つの中でも、お客様の利用シーンに応じたおいしさの提供ができているという項目は地域密着で長期経営する上で、重要なので、掘り下げよう。

 焼肉屋の客層のニーズおいては、ご飯を食べに来ている人と酒を飲みに来ている人のふたつの利用動機がある。都内の中心地ですら、ご飯を食べにくる要素は高い。そのために、タレを食べたい客層と塩を食べたい客層の潜在的なニーズの違いを嗅ぎ分け、その客層の事前期待に応える必要がある。
 
 多くの外食ビギナーである庶民が焼肉屋で食べたいのはご飯だ。
 そのために、「タレものがご飯に合うように設計できているか」「ご飯はスピーディに提供できているか」を確認する必要がある。ご飯にタレものが合うという落とし込みをするときに、あえて良い肉だとしてもジャガードをばっちり入れ、タレの味がしみ込むようにする必要がある。



 つまり、ご飯需要のお客様には決して、素材で食べさせないことが大切だ。おかずとしてご飯を食べていただくのだ。多来多来の特徴のひとつが上手な飾り包丁だ。飾り包丁とはタレをしみ込ませる技法だ。素材の味のわかるお客様は残念ながらほとんどいない。これが多来多来はひじょうにうまくできている。

 そして、このご飯需要のお客様に根本的ニーズは満腹中枢の刺激だ。したがって、ぱっと来て、ぱっと食べるニーズに応えるためにスピーディな提供をしなければならない。
 焼肉屋は時間を大切にする傾向があるが、食事需要のお客様の滞留時間を長くするように店づくりすることは禁物なのである。

 

 逆に塩ものを求める“焼肉通”の層には、こだわりのある部位をしっかり提案して、納得させる必要がある。商品知識、提案が客層・ニーズに応じてできることも信頼獲得の上では大切だ。多来多来のスタッフは決して強いアプローチはしないが、お客様にとって必要なことをやりとりし、提案ができる力がある。
 そのため、おまかせでニーズに応じることは大切だ。
 様々な利用動機にこたえられる客席設計も非常にバランスのよい店の条件。
 多来多来は十分に応えていた。


 
 多来多来はエッジが効いている商品構成ではないが、庶民にとって減点の少ない安定感のある地域密着の焼肉屋である。
 

「多来多来(たくたく)」
京都府久世郡久御山町大字森小字村東223-3
電話 075-632-2929

(→食べログ内ページ)


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筆者紹介

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講師 大久保 一彦


日本の将来のために創業・第二創業・イノベーションを支援する有限会社
代表取締役

10,000店舗を訪問、「反映の仕組み」を体系化 日本、フランス、アメリカなど1万店舗を実際に食べ歩き、 多くの飲食経営本を著す。 飲食店のもうけの構造を知り尽くした現場コンサルタント。 日本、アメリカ、欧州、1万店舗以上の店舗を訪ね、繁盛の秘訣を体系化し、「オオクボ式繁盛プログラム」を開発。損益分岐点を下げる仕掛けでは、月商400万円売れないと成り立たなかった店を月商180万円でも利益が出るよう指導し、成功させた。 (株)グリーンハウス時代に「新宿さぼてん」を惣菜店多店舗化に成功。独立後は、ハイディ日高、和幸、東和フードサービスなどの新業態開発やメニュー開発などを手掛け、地域密着店、老舗料亭やフレンチ・イタリアンの高級店等の運営から集客法までを一元的に指導。経営者の信頼を得る。 「行列ができる店はどこが違うのか」など著書24冊。

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