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社長のための「コラム&NEWS」
大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

50軒目 成熟した当たり前の商品を高く売るには


成蔵(高田馬場)

 
 私がコンサルタントとして独立した1997年ころから2000年くらいにかけてとんかつ店開業ブームの真っただ中にあった。私も惣菜店の立ち上げのサポートをしていたし、同業者も、ものすごい勢いで郊外にとんかつ店を開業させていた。
 とんかつ屋が開業ブームになるくらいだから、とんかつ屋という商売には、それなりの旨みがあるわけだ。
 例えば、とんかつ屋は取扱い食材点数が少なく、管理しやすい。揚げ物という商品特性から調理オペレーションを軌道にのせるのが比較的容易である。豚肉という原料は個体差が牛肉に比べて小さく扱いやすい。とんかつソースをかけて食べるので、味のブレが出にくい。お客様にはプチごちそうのイメージがあるので単価をあげやすい。ライス・キャベツおかわり自由のイメージがあるので、食事色が強い。家では揚げ物をしないが、定期的に食べる。
 こんなところだろう。
 
 しかし、その分、競争相手が増えやすい上に、商品での差別化がしにくいという難点がある。とんかつブームの後、過当競争に陥り、苦戦が続いている店も多い。
 
 今回紹介するとんかつ店は今や食べログで高得点の名店への道を歩み始めている高田馬場にある成蔵という店だ。
 しかし、開業した数年前は非常に厳しい状況にあった。今回は、成蔵の奇跡の成功を見ながら、とんかつ経営を掘り下げたい。
 
 とんかつ屋は、キャベツ・ライスお代わり自由というイメージが固定しているためか、食事色が強い。そのため、昼は強いが、夜は弱いという事態が起こる。特に、むかしのチェーンのとんかつ店のように白木のテーブルに、明るい雰囲気だと夜の弱さが際立ってしまう。
 その上、ビジネス街に出店すると、ランチ需要に応えないと経営が困難になるので価格を下げざるを得なくなる。そうなると経営はきわめて厳しくなる。価格をある程度以上下げると、商品では勝負できなり、定食チェーンの商品との明確な違いを出しにくくなる。というのは、とんかつという商品は個性的な商品開発が難しく、差別化するとしたら分厚いポーションで柔らかさを強調するしかないからだ。
 私が「新宿さぼてん」にいた1990年代中盤ころはロースかつとヒレカツの差は10対1~2くらいの比率であった。少しして、輸入豚ロースを活用するチェーンが増え、「脂身がうまい」というロースの売り方から、肉の柔らかさを強調しヘルシーさを訴求する売り方をするようになり、ヒレかつから脱却を図っていった。私が以前サポートしていたとんかついなば和幸はその典型だろう。国産豚に比べて輸入豚は輸送期間における低温熟成がヒレに求められる要素を代用していたように思う。いつしか、ロースはチェーン、フランチャイズの主流になった。
 
 夜の弱さを克服したのは、センスあるとんかつチェーン「かつくら」だ。かつくらの成功要因は、店内を雰囲気重視し、内装を夜の利用動機にあわせたことと、王道であるヒレ、ロースのボリュームではなく、揚げ物っぽく見せたことにあると私は思っている。
 
 さて、価格破壊が進む中、チェーン化して利用頻度をあげようとすると、とんかつの売価は限りなく1000円に近づく。「かつや」のように700円、500円と客単価ダウンできれば、展開の余地は広がる。ただし、とんかつは軽食でなく“重食”であるので、お腹がすいた時間しか消費者は店を利用しない。したがって、不特定多数の見込み客が狙える立地を選ばねばならず、簡単そうに見えるが、価格をさげて展開することは容易ではない。
 それに対して個人店は衰退した。この下がる価格に対して、昔からある名店ならまだしも、あくまでも食事利用であるとんかつがそんなに遠くからお客様を集客する商材ではなかったからだ。
 
 しかし、その事態を一変させたのが食べログである。食べログは今までは困難だった、遠方から見込み客を引き寄せたり、その地に来ている見込み客を寄り道させたりするツールとして大いに個人店を味方した。
 とんかつは、好きであれば、誰でも関与可能な商材であり、B級グルメとして機能するという本質があったからであり、来店の確率の高い見込み客を引っ張ってくる飛び道具の媒体として機能した。
 
 こんな時期に起業を試みたのが今日、紹介の成蔵のオーナーの三谷成蔵さんだ。いい仕事をする料理人の三谷さんは、大阪の串カツ屋をやりたくて開業を志した。
 開業予算の関係もあってか、とんかつ屋としてはあまりよくない、JR高田馬場から5分以上もあり、店前通行量が少ないこの場所を選んだ。とんかつ屋の経営の王道としては、基本的には厳しいバターンだが、ある意味、この二等立地が食べログの口コミにはよかった。そして、やむを得ず、始めたとんかつが三谷さんを救った。
 その救った商品がヒレかつだった。普通なら、売れる価格に合わせてそれなりのヒレかつを出すことが多い。しかし、分厚いヒレかつを「シャ豚ブリアン2400円(ランチは2100円)」として、看板商品として据えたことがよかった。これが静かに食べログ書き込みを増やした。


 肉の部分の柔らかさと繊細さはヒレのほうが圧倒的にいい。
 この「シャ豚ブリアン」は他店との明確な違いを感じさせることができる商品設計となっている。
 肉の厚みもさることながら、三谷さんという調理人の技術や気質は欠かせない。三谷さんは仕事が丁寧で、愚直なくらいじっくり、じっくり揚げる。そうすると、この厚みのあるヒレの潜在的なおいしさを十分開花させる。
 三谷さんの技が食べログのレビュアーの心を打ち、今はなんと4点を超えるとんかつ屋となったのだと思う。


 高田馬場に「とん太」という名店があり、それも良かったのかもしれない。とん太と競うように、対比されながら、レビューが増え続けた。食べログが4点となると客数は倍になり、串かつは到底できなくなった。
 ついに、3月、三谷さんはとんかつのみに絞り込んだ。
 
 考えてみれば、とんかつは学生でもがんばれば行くことができるご馳走でもある。マーケットは大きいのだ。
 成蔵のレビューを見ると店を応援している人が多い。
 ある意味覆面調査のようだが、応援サイトであるのだ。
 食べログを意識した店づくりは大切だと思うできごとであった。
 

成蔵 (食べログ内ページ)
東京都新宿区高田馬場1-32-11 小澤ビル地下1F

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筆者紹介

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講師 大久保 一彦


日本の将来のために創業・第二創業・イノベーションを支援する有限会社
代表取締役

10,000店舗を訪問、「反映の仕組み」を体系化 日本、フランス、アメリカなど1万店舗を実際に食べ歩き、 多くの飲食経営本を著す。 飲食店のもうけの構造を知り尽くした現場コンサルタント。 日本、アメリカ、欧州、1万店舗以上の店舗を訪ね、繁盛の秘訣を体系化し、「オオクボ式繁盛プログラム」を開発。損益分岐点を下げる仕掛けでは、月商400万円売れないと成り立たなかった店を月商180万円でも利益が出るよう指導し、成功させた。 (株)グリーンハウス時代に「新宿さぼてん」を惣菜店多店舗化に成功。独立後は、ハイディ日高、和幸、東和フードサービスなどの新業態開発やメニュー開発などを手掛け、地域密着店、老舗料亭やフレンチ・イタリアンの高級店等の運営から集客法までを一元的に指導。経営者の信頼を得る。 「行列ができる店はどこが違うのか」など著書24冊。

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